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徳島地方裁判所 昭和24年(行)24号 判決 1949年6月30日

德島県板野郡松茂村長岸

原告

北西市次郞

德島市德島県庁内

被告

德島県知事 阿部五郞

右指定代理人

森岡邦太郞

吉岡正巳

德島県板野郡松茂村役場内

松茂村長

粟田善吉

右当事者間の昭和二十四年(行)第二四号事業所得額決定等取消請求事件につき左の通り判決する。

主文

原告の訴は却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、請求の趣旨として被告德島県知事阿部五郞が為した、原告の昭和二十三年度第二種事業所得額を金十万五千九百円とする決定及び原告の同年度第二種事業税前期及び後期分各金三千百七十七円の賦課処分並に、被告松茂村長粟田善吉の為した原告の同年度前期及び後期分の右事業税附加税各金三千百七十七円の賦課処分はこれを取消す。との判決を求め、其の請求の原因として原告は肩書地において農業に従事し、梨、南瓜、大根類を栽培しているものであるが、昭和二十三年農業所得は收入金額十九万七千五百円より生産必要経費十二万九千七百一円を差引き金六万七千七百九十八円であつたのに拘らず、被告知事は原告の事業所得を金十万五千九百円と見積り之により被告等は昭和二十三年十二月十日過頃請求の趣旨掲記の課税標準たる事業所得額の決定及び本税、附加税の各前期分の賦課処分を、次いで昭和二十四年二月五日過頃同後期分の賦課処分を為した。併しながら右各賦課に関する処分は何れも原告の事業額の課税標準である事業所得額の評価を誤つた違法があるから、前叙前期分の徴税伝令書及び令書の送達を受けると共に直ちに被告松茂村役場を通じ被告知事に異議の申立をしたところ、同村役場、永野徴税主任も其の決定の不当を認められ県吏員の来村の際、再審査を受けられたしと申向けたので、原告は待期していたところこの機なく、却つて昭和二十四年三月前叙賦課額について督促を受けたので、板野地方事務所に再度異議申立をした結果、納税額に於いて千五百円の減額訂正をうけ得たが、尚訂正税額も違法に高額であるから其の取消を求めるものであると陳述し原告は不服申立方法として書面によらず口頭を以て前期分賦課県税については被告村長を経由して被告知事に対し、同附加税については被告村長に対して夫々異議申立をなしたものであつて、被告村係吏員もこれを諒として受理したものであると附演し、立証として証人水野基治の訊問を求めた。

被告知事代理人は、本案前の抗弁として主文同旨の判決を求め、その理由として地方税の賦課に関しての処分に対し不服を主張する者は書面を以て異議申立すべきであり、殊に德島県税賦課徴收條例にはその旨明定している。従つて原告の異議申立があつたとしても書面によらぬ原告の異議申立は不適法であるから異議決定を経由しない本訴は不適法として却下せらるべきであると述べ、本案に付き原告の請求棄却の判決を求め答弁として被告知事が原告の経営する果樹園二反及び大根三反歩、南瓜三反歩の事業所得額として金十万五千九百円の決定通知を為し、且これを課税標準として原告主張の賦課をしたこと及び其の後課税資料の誤謬発見により所得額を九千九百円に減額したことはこれを認めるが、その他の原告の主張事実は否認する。即ち被告知事が課税標準を減額したのは、原告の異議申立を適法としてこれを受理した上で更訂したものではなく、自発的にてなしたものである。即ち原告に対する事業所得額の決定は板野郡管内平均反收四百貫、單価一貫匁につき百円とし、この利潤率百分の五十として算出したものであつて、原告住居地附近である松茂村、大津村は梨の主産地であるから、管内平均率の生産高を五十パーセントに引上げた率により決定したものであるから、何等違法の廉はないと述べた。被告村長は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として被告の賦課した事業税附加税は本税額を課税標準として賦課したものであつて、本税額の更訂のない限り税額を変更し得ないものであるから、被告村長の賦課処分に何等の違法は存しない。従つて原告の本訴請求は理由がないと述べ、本件県税及び村税につき被告村長が徴税伝令書並びに令書を原告に送達したのは前期分は昭和二十三年十二月十日、後期分は同二十四年二月五日であつて、原告より被告村長に対して賦課過重の理由にて口頭を以て異議申立してきたことは認めるが、右は書面によらぬものであるから、正式の異議申立として受理せず且、その旨原告にも注意を與えたが、その後便宜被告知事に対し、原告不服の旨を通達しておいたにすぎぬものであると述べた。

理由

被告德島県知事の本案前の抗弁について按ずるに昭和二十三年十二月十日過頃、被告知事が、原告に対し昭和二十三年度事業税の課税標準としての所得金額の決定通知及び前期分事業税金三千百七十七円の被告松茂村長が右についての同額の附加税の賦課処分をなしたこと並に昭和二十四年二月五日過頃同後期分の本税、附加税として同額の賦課処分をなしたことは当事者弁論の全旨に徴し明かであつて、原告が右課税標準の決定及び前期分の本税、附加税の賦課に対して異議を申立てたが、これは書面によらず、口頭を以てなされたことは原告の自認するところである。而して地方税の賦課に関する処分に対しての異議申立は特段の規定のない限り、争訟行為の確実性、その他に地方税法第二十一條第七項、地方自治法第二百五十七條の規定により異議決定の文書を以てすることを要することに鑑み、書面を以てなさるべきであり、殊に德島県税賦課徴收條例第五十三條には明文を以て、その旨規定してあるに徴し、書面によらぬ異議申立は不適法である。原告は被告村長に於て原告の口頭による申立を正当に受理せられた旨の主張をするけれども証人水野基治の証言を以てしては、これを認定することはできない、且他に口頭異議申立を正当化せしめる事情を認めることのできない本件に於いては、地方税法第二十一條第五項に徴し、本訴は不適法として却下せらるべきものとする。

仍て訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 今谷健一 裁判官 村崎淸 裁判官 三木光一)

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